音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

障壁画と工房から

今年の5月、京都東山七条の智積院に、長谷川等伯の障壁画を見に行って来ました。

収蔵作品|総本山智積院 長谷川等伯一門 国宝障壁画

実物のスケール感はインターネットや本で見るのとは大違い。迫力に圧倒されます。長谷川等伯狩野永徳、俵谷宗達、といった時代の転換期(安土桃山~江戸初期)に活躍した巨匠の大作は、時代の躍動感そのままに強いインパクトを感じさせてくれます。

30代半ば頃からこれら巨匠に惹かれるようになったのは、彼ら自身が卓越した芸術家であるのは当然として、それ以外に、工房を主宰するディレクターやプロデューサーの仕事もしていた、という面に興味を持ったからでした。

一人では為せない大作を、仲間をうまく率いて完成させるエネルギーの大きさに気付いた時、背筋が寒くなるような感動を覚えたんです。

ウィキペディアによると、長谷川等伯は32歳で石川県七尾から上洛、生家の菩提寺の本山から庇護を受けながら、絵を描いて売る「絵屋」として生計を立てていたそうです。まずは地縁を頼って中央で仕事を始めた、ということですね。
その後、利休が依頼した大徳寺三門での仕事が評価され、中央画壇に地歩を築いたようですが、引き受ける時は度胸が要ったことでしょう。このあたりの動きは、一介の画工が総合アートディレクターに転身していくドラマのように感じます。
等伯のように自身の優れた才能のみならず、人を使って更にスケールの大きな仕事へ昇華させるような才能。私の場合、社会経験をある程度積んで初めて、ようやくそのすごさに気付いた次第です。

このようなダイナミックなアートワーク、現代では映画製作に典型を見ることが出来ますね。映画は本当にたくさんの方の仕事が一つの作品に集約されている。映画のメイキングビデオを見ると、多くの人の知恵と汗が集まるありさまが良くわかります。

ニコニコ動画で有名なドワンゴの川上さんは、いっときスタジオジブリに「弟子入り」されたようですが、その目的の一つは、ジブリの卓越したグループワークの本質を知ろうとされたのではないかと思います。

 【参考】かわんご(川上量生)非公式bot (kawango_bot) on Twitter


川上さんは炯眼で、例えば「ジブリは続編を作らない」という見立てには、なるほどと唸らされたのですが、真摯に創作にチャレンジする工房の姿というのは、それ自体がひとつのドラマのように見えるんでしょうね。

さて。
私は社会経験を積んだ後で、以上述べたようなことに興味を持っただけに、当然大人の常識として、台所事情のほうにも興味が向きました。創作活動を続けるには、当然お金が必要ですもんね。著作権ロイヤリティに関わる仕事をしてますから、なおさらお金がどういう風に動くか、ということには目が向きます。

ちょっと生々しいけど、現在TPPで交渉のテーブルに上がっている著作権の存続期間延長問題を、このような「創作のしくみ」に照らして考えると、しくみの違いによって感じ方が随分変わるように思うのです。たとえば。

 個人・・・夭逝した場合、子の養育資金として存続期間は必要。
      でも死後70年もいらないような。
 工房・・・過去のヒット作から収益があれば、次の作品の資金になる。             長くもらえるのはありがたい。

というふうに。
実はもう一つ、存続期間延長問題にかかわる当事者があります。それは投機筋。著作権は譲渡できるから、儲け話として投機買いされるような場合もあるんですね。
こういった人たちが存続期間延長を声高に叫ぶと、庶民感覚的には印象は悪くなる一方なんでしょうね。

アメリカではミッキーマウスの著作権消滅を回避するため、某社が著作権存続のロビー活動に励んだ末、存続期間が延長されたとよく耳にしますが、某社がジブリのように、新しい創作に精を出しているのなら、庶民感覚的にも多くの同意が得られることでしょう。でも、もし過去の栄光にすがり、利権にあぐらをかいているだけなら、誰もそんなところにシンパシーを感じないんでしょうね。

ちょっと某社に懐疑的な書き方をしてしまいましたが、某社も新作映画を発表し、娘はこの作品が大好きだったりします。
http://www.disney.co.jp/monsters-university/


今回は展開にちょっと無理がありましたね(汗)スミマセン。
めげずに考えを深めていきたいと思いますm(__)m