音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

消えゆくマスターテープについて

音楽ソフト2013年年間マーケットレポート、2年ぶり前年比減〜オリコン発表


音楽ソフトの売り上げが右肩下がり、というニュースは珍しくもなくなってしまった。そんな中にもかかわらず、レコード会社などコンテンツメーカーを非難する声があることに、音楽好きの私は、どうもやるせなさを感じてしまう。今日はそんな渦中に、人知れず埋もれている事について書いてみたい。

良く知られていることだが、レコードにはマスター音源(マザー)がある。私は昭和後期に青春を送った世代だが、マスターというと、幅広のテープを想いだす。

MASTER TAPE ~荒井由実「ひこうき雲」の秘密を探る~

 

このNHKの番組をご覧になられたは多いと思う。非常に素晴らしい番組だった。荒井由美のファーストアルバム「ひこうき雲」の収録秘話を、当時の録音メンバーがマスターを聴きながら語るという内容。音に耳を傾ける面白さがヒシヒシと伝わってくる。

番組中語られるエピソードに、録音スタジオのプロフィールがあった。田町にあったアルファスタジオ。番組ではさらっと流れてしまうが、このスタジオは、もう今はない。切ない話だが、今では録音スタジオの需要は本当に減ってしまっている。

たとえば、若い頃ソニーといえば信濃町スタジオだった。故郷関西に浪花エキスプレスという素晴らしいバンドがあり、ファーストアルバムを信濃町スタジオで録った。上京して日本随一のスタジオでファーストアルバムを録音。それだけのことだが、若い頃の私には、とんでもなく夢のような話で、純粋にあこがれたものだ。その信濃町スタジオも今はもう無い。

話がそれました。スミマセン

マスターテープというのは、リアルタイムにその音に親しんだ人だけでなく、後世にも伝えるべき、かなり大事な文化的所産ではないでしょうか。それが失われると、リミックスもリマスターも出来なくなってしまう。音楽コンテンツメーカーは、このようなマスターテープの所有者であり、保管・保守コストを負担し続けている、という大事なことが世間から忘れられていることが、最近気になってきています。

音楽コンテンツメーカーも営利企業。利益を生まないものは排除していかざるを得ない。泣く泣く古いマスターから処分しているのではないでしょうか。
質量的には、おそらくマルチトラックテープの時代が、一番かさばって重いのではと考えられます。つまり私の世代のマスターは、一番保存コストがかかるのでは、と。

最近ふと懐かしくなり、若い頃に親しんだ音源を買い直しているのですが、このお布施がマスターテープの延命に寄与してくれたらなあ、などと思うのです。

音楽産業は文化発展の当事者でもあり、その活動自体が、文化的所産を生む。その所産は大きい目でみれば国民の財産でもある。でもその保守管理は、消えゆく倉庫の片隅でかろうじて細々と続けられている。灯が消えないよう頑張らねば。