音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

人知れず進む文化の衰退-録音コストの漸減について

 ブロードバンドとファイル圧縮の技術進歩が、音楽流通の世界にパラダイム・シフトをもたらしたことは間違いありません。そして、無料で情報を享受できるインターネットの世界では、有料サービスがうまく行かないのは、当然の成り行きだったのでしょう。

 このような状況、短絡的に「無料でラッキー!」などと喜んでいるうちに、文化の痩せ細りはヒタヒタと進行していると私は思うのです。

 痩せ細りの悲鳴が一般にはあまり聞こえないのは、文化を売る人たち、つまり書籍出版社やレコード会社、映画会社などが「夢のプレゼンテーター」であり、夢のない話を、自らファンには語れないから、ではないでしょうか。


 音楽業界では、録音の現場で、その傾向が顕著と感じます。

 プロの録音には当然コストがかかります。ミュージシャンやエンジニアの人件費、録音スタジオの賃料、ミックスダウンやポスト・プロダクションの費用にはじまり、打ち合わせ費用やアゴ足代まで含めると、結構な金額になります。良い作品を仕上げようと思えば、費用がかかるのは言わずもがな、です。

 これらの経費、レコード会社が製作主体であれば、過去に売れたレコードの収益から、次のレコード制作に充てがわれます。だからレコードの売り上げが減れば、当然に次の作品の製作コストも減ります。制作コストの減少は、当たり前に作品のクオリティに影響します。
 でも夢の売人であるレコード会社は、そんな夢のない話を口にしてはならないのでしょう。自分の首を一層締めるだけです。

 40代以上の方には共感いただけると思いますが、かつて、生オケをバックにした歌番組が、毎週放送された時代がありました。オケは、メンバーの数だけ人件費がかかります。その時代、音楽業界にはそれだけの経済的体力があったということでしょう。
 昨今はダンサーが多くなりましたが、ダンサーの平均年齢は低く、人件費はオケより安いことは明らかです。また、ヒップホップではDJもステージでパフォーマンス?しますが、これなどはコストダウンには大きく貢献すると思います。何気ない変化の背景には、やむを得ないコストダウンが潜んでいるのかもしれません。

 このような状況を「チープな製作コストが、音楽をつまらなくする」などと批判するだけで、何が生まれるのでしょうか。負のスパイラルに陥った経験は、どなたにでもあると思います。抜け出す苦しみは並大抵ではない。
 
 文化産業は「産みの愉しみ」「育ての愉しみ」を多くの人と「共感」するための使者みたいなもの私は思います。私は文化産業の裏方の裏方、太陽系の辺縁みたいなところで、文化産業を見つめる仕事をしていますが、自らの勤めのみならず、30年来の音楽ファンのひとりとして、負のスパイラルを抜け出す新しい知恵、ビジネスモデルみたいなものを考えていく必要を感じています。