音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

音楽出版社を知る (1)

一般の方には聞きなれない「音楽出版社」。よく楽譜出版社と混同されるのですが、全く別のものです。音楽出版社は、手短かにいえば、作詞家・作曲家などのパートナーとして、彼らの著作権を管理する、というのが本来の機能です。

音楽出版社が一般に分かりにくい原因は、「出版」という言葉から、どうしても印刷っぽいイメージに囚われてしまうことと、「著作権の管理」の「管理」という言葉が抽象的で、具体的に何をするかが思い浮かばないから、と私は推測しています。

私は、あえて一言でいえば、音楽出版社は「出資者と作者の分電盤」だと思っています。

この考えを人に伝えると、特に若い音楽関係者の方が「それはおかしい」と言ったりします。著作権は作った本人のものなのに、なぜ他人に分け前をやらなきゃいけないのか、という主張が込められています。

この主張には、私は発明と特許の例を使って説明するようにしています。

発明は主に、企業の研究所などで生み出されます。つまり発明の多くは企業などの研究費(資金)をもとに、複数スタッフの共働により成り立っています。

しかし特許権は制度上、発明者個人に属することになります。そうすると、発明者が転職してしまうと、せっかくの特許が、発明者ごとよそに移ってしまうことになります。これでは企業は困ってしまいます。そのため、従業者の発明については、企業が一定の権利を得るような仕組みがあります。

音楽はひとりで創作することが多く、創作過程では発明ほどに元手はかかりません。しかし流通させるとなると話は別。録音費用、広告費用、プレス費、在庫費、人件費その他諸々がかかります。もちろんその資金を出した企業などは、当然投下資本を回収せねばなりません。

音楽出版社は、出資やプロモートを担った企業が、その作品について一定の権利を得るための仕組みなんです、という具合に私は説明しています。

音楽出版社が担うもうひとつの大事な機能は、ビジネスに弱い音楽作家をサポートする、という点が非常に大きいと思います。これも発明と比較するとよくわかります。

発明は、発明者本人が面倒くさい出願書類を作らねばなりません。つまり発明者は事務処理について早くからトレーニングを積んでいます。方や音楽作家は、事務処理やビジネスについて興味が薄いことが多いようです。善良な音楽出版社は、こういったビジネスの勉強が嫌いな音楽作家をの面倒を、実にこまめに見ていたりします。

自己愛が強い若い音楽クリエイターが「俺は俺のやり方でいく」といわれるケースも多く見かけますが、大事な契約で良くポカをしていたり、契約書を作ることすら面倒くさがって、後から大きなトラブルに見舞われるケースをよく見聞きします。これなども、善良な音楽出版社がサポートしていれば、未然に防ぐことができます。

このように音楽出版社は、音楽がうまく世に広まるための仕組みとして、非常に重責を担っていると私は思うのですが、あまり実態が知られておらず、研究もされていません。

私は多くの音楽好きの方に、この音楽出版社について知っていただきたいと思っています。