音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

著作権ロイヤリティは「B to C」では回収できないこと

先月の文化審議会著作権小委員会で、汎用ストレージ(クラウド)サービスについて、JASRACなど権利者側が意見を述べた。

その際、T氏というインターネットユーザーを代表する委員が、公の立場にあるにもかかわらず、一私人として反対意見を批判的にツイッターにアップしたことから、「2ちゃんねるまとめサイト」などを通じて、妙な風評が広まった。さらにその風評を受け、ネットメディアが以下のような記事を出した。

JASRACの発言が波紋 クラウドサービスに保存した音楽データにも著作権料は発生するべきか

私は、まずT氏の行動がそもそも委員として軽率であり、他の委員に対し失礼だと思う。そして、いかに意見を異にするとはいえ、国の公式な審議会でこのようにお行儀悪く振る舞うことは、代表者自らがインタネットーユーザーの立場を貶めているようで、とても見苦しいと感じる。

 

ともかく、風評が高じ、上記リンクのような記事がマス媒体から出たのを見て、やはりストレージサービスの実態を考慮した見解がネット上に必要なのではと思い、拙いながらも本記事を書くことを思い立った。

 

1 ストレージサービスの実態と著作権侵害の当否について

私は、上記記事で、記者が「背丈よりも巨大なサーバーは私的な利用とは言えない」などという、権利者側の委員が説明上の比喩として使ったにすぎない言葉をさして「委員の理解のほどが窺い知れる」などと思慮の浅いコメントしている点に問題を感じている。まず汎用ストレージ(クラウド)サービスが著作権を侵害するのかどうか、しっかり考えることが必要なのだ。

ユーザー本人しか使わない個人専用ストレージが、私的複製(著作権手続きは不要)にあたることは論を待たない。

ところが、上記リンクでも書かれているDropboxというサービスなどは、ユーザー本人が外出時などにアクセスするような個人用途より、圧倒的に友人らと共有するために使われているのが実情のようである。共有する範囲が著作権法に定める「家庭に準ずる範囲」ならともかく、それを超えれば明らかに私的複製とは言えず、送信可能化(公開アップロード)にひとしい。

かつて東京高裁で「ファイルローグ」というファイル共有サービスについて、著作権侵害にあたるかどうかが争われた。原告はレコード協会加盟社など、被告はサービス運営会社である。
ファイルローグは決して音楽専用サービスでも何でもなく、汎用ファイル交換サービスである。にもかかわらず、裁判所はサービスの差し止め請求を認めた。それはファイルローグでは、かなりの比率で、レコード会社やJASRACの権利を侵害するようなファイルがやり取りされていた実態があった(つまり裁判所が認定するような証拠を原告が出した)、ということを示している。

ストレージやクラウドというと、表向きには私的領域に留まり、権利者が四の五のいうべき筋ではないように見える。しかし、今回の審議会小委員会で、権利者側が著作権侵害について強く警戒したのは、表向きは個人ロッカーだが、実態はコンテンツばらまきツールと化しているサービスが思いのほか多く、権利者側は、実態をつかんみだしたことを示しているのだろうと私は推測している。

2 権利者の本音は、[B to C]ではなく[B to B]で済ませたいということ


そしてインターネットユーザー側が圧倒的に「考え不足」と思うのは、いかに権利者が強力としても、ひとりひとりのユーザーに対し、B to Cでお金をとっていくのは、まず不可能という現実を忘れているということ。それに「タダで楽しみたい」という我欲レベルにとどまり、文化の維持発展や、コンテンツは日本の将来の財源、という視点が出ていない、ということである。

インターネットユーザーはおそらく若い世代が多いのだろう。文化コンテンツをタダで享受したいあまり、コンテンツを供給する側、つまりそれで生活する職業人たちのふところ事情をおもんばかるだけのメンタリティが無いのだと推察する。

権利者側は、一人一人のインターネットユーザーに直接ロイヤリティ(つまり文化維持のコスト)を負担させたいとは思っていまい。そんなことしたら経費倒れになってしまうからである。

たとえば、JASRACが「利用主体性」について判例を重ねてきた経緯をながめても、彼らは、個々のエンドユーザーではなく、その事業から収益を得ているプロの商売をしている連中からロイヤリティを得たいと考えている(=B to B)ことは明白であろう。

そして、権利者らがストレージサービス事業者に文化維持コストの負担を求めている姿は、けっきょく、クリエイターがアグリゲーターに抗しがたい歴史的構図の投影のようにも思える。

一連の風評やマスコミ記事は、権利者側を揶揄するレベルにとどまり、ストレージ事業者がどのように対応する所存かについて、何も触れられていない。これは一体どうしたことか。Dropboxなどのストレージ事業者の考えを是非取材されたい。

最期に。
若いインターネットユーザーは、目先の悦楽を享受したいがために、彼らの次の世代に不毛の砂漠を広げているのかもしれない、と思うのだが、それを口にするのは、きびしすぎるのだろうか...。