音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

コストを軸にロイヤリティを考えてみる

むかし、とあるジャズミュージシャンが自作曲入りのリーダーアルバムを作った際、著作権をどう管理するかで話をしたことがありました。

そのアルバム、彼から聞いた話をまとめると、とあるプロデューサーが彼の演奏を気に入り、レコーディングから発売までを全てフィックスしてくれたそうです。おおむね費用分担は以下のようになっておりました。

  参加ミュージシャンに払うギャラ・・・プロデューサー負担
  録音スタジオ費・・・プロデューサー負担
  原盤制作費・・・プロデューサー負担
  流通経路・・・プロデューサーが全て交渉しリスク負担

つまり彼は大して費用のかからない音楽制作(作編曲、演奏メンバーの調達、指揮)のみに注力すればよく、費用が発生する部分は全てプロデューサーに任せていたんですね。
最初に話を聞いた時、まあ優しいプロデューサーだ、と思いました。よっぽど彼に惚れ込んだんでしょうね。プロデューサーは30代前半の若者だったように記憶しています。要するにそのプロデューサーは、彼の作品を世に出すため、初期コストを、全部抱え込んでくれた訳です。

彼が私と話をすることにしたのは、自作曲の著作権料が、自分の全く預かり知らない「音楽出版社」というところから振り込まれるのが、さっぱりわからない、しかも著作権料は全部自分のもののハズなのに、自分の取り分が50%になっているのがわからない、という疑問について、一緒に考えるためでした。


以上のように手順を追ってお伝えすると、この疑問を解く「キモ」は、初期コストの負担や、作品が世に流通する際のリスク負担を、だれが負うか、というおカネの問題と関係があることに気付いていただけると思います。

とりあえず私は彼に対し、「プロデューサーはあなたに一銭も費用負担を求めなかったし、全部出してくれたんですよね。ならば著作権料の50%は、プロデューサーが初期投資した分のロイヤリティなのかもしれません。そのプロデューサーは会社を持ってなかったんですよね。実は個人事業主は、著作物使用料を取り扱う[音楽出版社]の立場にはなれないんですよ。ですので、その音楽出版社に頼んだんじゃないでしょうか、手数料を払って。」と答えました。

残念ながら、彼はどうしても「著作権料は作者である自分ひとりだけのもの」という固定観念から抜け出せず、プロデューサー非難を繰り返すだけで、結局本質的な理解が得られないまま話を終えることになってしまいました。私の話し方も拙かったでしょうね。理解の得られる話し方が出来なかった、という点で、返す返す残念な思い出のひとつです。

作品がどれだけ売れるかわからない準備段階で、初期コストなどのリスクを負担するのって、非常に勇気のいることだと思います。もし力のあるプロデューサーなら、リスクを全てレコード販売会社などに押し付けることも可能でしょう。でもこの話の30代前半のプロデューサーは、どう考えてもそこまでの力はない。

結局そのプロデューサーは、著作権料の一部で、初期投資を回収することにしたと、これを読むみなさまは容易に推測いただけると思います。実は初期投資の当事者が、ロイヤリティ(著作権料)の恩恵にあずかる立場になることって、洋の東西を問わず、当たり前のことなんですね。
つまり、著作権ロイヤリティというのは、クリエイターにとっては、それを担保にスポンサーから出資をあおぐためのツールでもある、という発想が必要なのだと思います。今はお金がないけど、この作品が売れればロイヤリティが入り初期投資を回収できますよ、さらに配当(著作権料の分配)に預かれますよ、と。

よくネットでCDの売り上げの内訳比率、というのが出ています。以下のようなものですね。
  ①CD製造原価   7%  CD盤そのもの、ケース、歌詞カードなど
  ②著作権使用料   6% 作詞作曲者に入る著作権使用料
  ③アーティスト   1% アーティストに入る歌唱(実演)印税
  ④宣伝広告費  15% あとは宣伝費⇒そして小売店、レコード店への協力費
  ⑤物流経費            20% 倉庫代・輸送費
  ⑥小売店取り分 25% CDショップなど小売店の取り分
  ⑦レコード会社 30% 営業経費・再販返品償却費・管理費・原盤制作・利益


でもこの比率の本質的理解は、これだけでは舌ったらずなんだと私は思います。この項目を、ロイヤリティなのか、ギャランティなのかに分け、ロイヤリティを貰う当事者が誰なのかを把握することが大事なのだと。そうすると、ロイヤリティの恩恵が、出資者と結びつくことがよくわかるはずです。
  ギャランティ・・・①、④、⑤、⑥、⑦(原盤制作と利益を除く)
  ロイヤリティ・・・②、③、⑦(原盤制作と利益)


こういった制作や流通にまつわるコストとロイヤリティの知見は、これから作品を世に出そうとするクリエイターやプロデューサーには、本来必須のものだと思います。でも実社会では経験知的にしか伝わっていないように感じるのです。
日本の作品を本気で海外に広める時代、このような実質的な経験知をもっと重要視する必要があるのでは、と思うのです。