音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

音楽出版社を知る(2)

 前回は音楽出版社のアウトラインについて触れました。今回は音楽出版社著作権者となることが、なぜ音楽業界で一般化したかを考えてみようと思います。

音楽作家(作詞家・作曲家など)は通常、創作や演奏、録音といった制作段階までが仕事の領分です。出来上がった作品を世に広めたり、売上を管理すること、つまり作品の活用やビジネス展開については、専門のスタッフにまかせたほうが、効率が良さそうです。そもそも契約などの法律行為や経理などのビジネススキルは、制作のスキルとはかなり異質なものです。音楽作家が全てひとりでこなすのは困難です。

うまくスタッフを使って作品をプロモートするには、スタッフに契約当事者となる権限を付与することが不可欠になります。この権限の実体こそ、著作権に他なりません。このため、音楽業界では、作家から音楽出版社著作権を譲渡し、作品利用に関する契約その他プロモート活動を音楽出版社にゆだねる慣習が一般的になっています。音楽出版社が譲渡により自ら「著作権者」の地位を得るのは、このようにビジネス展開する上で不可欠な「当事者権限」を持つため、という理由が最大のようです。

しかし音楽作家にしてみれば、虎の子の著作権をただ譲渡してしまうのは大きな損失です。そのため、音楽作家と音楽出版社は、単なる譲渡ではなく、音楽作家に配慮した業界特有の契約を結びます。大まかな主旨は以下2点になります。

  1 著作権そのものは音楽出版社に譲渡し権限を与える。
  2 そのかわり、音楽作家は作品から得られる収益の分配権を得る。

この契約、業界では短く「著作権契約」と呼びならわされていますが、体をあらわすには「分配請求権付与特約付著作権譲渡契約」という風に表されると思います。長ったらしくて呼びづらいですね。でも「著作権契約」だけでは契約の実態はわかりません。単なる譲渡契約なのか、分配請求権が付与されるのか。この点は、とても大きな違いです。

この「著作権契約」が平和裏にスタートし奏功すると、作品が広くプロモートされ、音楽作家、プロデューサー、スタッフ、作品にかかわる全ての人が潤うことになります。音楽出版社著作権者となることが一般化した理由のもう一つは、創作のプロとビジネスのプロが協業しつつ、双方にメリットとなる契約形態が一般化し、それが音楽作家の立場からしても不利ではないことが実証されてきたからではないか、と私は思います。

余談をひとつ。一般公開しているJASRACのデータベース J-WIDを見ると顕著にわかるのですが、商用利用が想定されるタイプの音楽、つまりプロモートが必然となるような作品は、かなりの頻度で音楽出版社がついています。
片や、採算を度外視して創作されたような作品には、音楽出版社がついてないことが多い。

採算を度外視した作品には、音楽作家の純粋な発意があるように見受けます。片や音楽出版社がついている作品は、プロデューサーやスタッフのみならず、リスナーまでを含めた多くの人に恩恵を与える大きな力があるように感じられます。どちらも音楽の素晴らしさに変わりないのはいうまでもありません。