音楽とか文化とか

その時々に考えたことをとりあえずメモしています

ジャズとスタンダードナンバーと

恥ずかしながら、本気でスタジオミュージシャンになりたいなどと夢想していた10代後半のころ、当時はポピュラー音楽の技法を体系的に学ぶ方法も限られていたし、とりあえず軽音楽部(ジャズ研)に所属し、地元のジャズスクールに通いつつ技法を学んだ時期があった。もう30年近く前になる。
そんな名残か、今でも一応、ジャズには愛着がある。その一方、好きでジャズの世界に入ったわけでもないから、冷めた目でジャズを見ている部分もある。

当時、まず練習の題材にするため、有名なジャズチューン(曲)を覚えていったのだが、その折、いわゆるジャズスタンダードナンバーというものが、昭和初期〜中期に生まれた、えらい古い楽曲であることを知った。決して嫌いではなく、むしろコードの響きなどは気に入ってたのだが、「こんな古い曲、どんな人がよろこんで聞いてくれるのだろう。」などと当時率直に思ったりした。

もちろんオトナっぽいシックさや、ノスタルジックな雰囲気は、ホテルのラウンジやレストランのBGMにはもってこいだが、私のような1960年代生まれ世代には、軽音楽部員など一部を除いて、同世代の愛好者はまれだった。

ほどなくレストランでの演奏のアルバイトをするようになって、昭和30年代初頭ころに青春時代を迎えた世代には、スタンダードナンバーが割と喜ばれることを知った。当時そういう世代は50代後半で懐も温かく、たまにはおひねりを頂けるようなうれしい経験もさせていもらった。

あれから30年。その自分がいよいよ50代に突入する。

ふとジャズ演奏を聴きたくなることは、今でもあるのだが、どうも古いスタンダードナンバーへの執着はない。むしろ若いころに練習の題材として嫌になるくらい聞いたから、もっと後の時代のなじみのある曲を聞いてみたい、という思いが強い。リズムもスウィングでなくていっこうに構わない。

ジャズは、元の素材に対して、即興で「フェイク」というか「派生版」を奏でるフォーマットだし、素材(楽曲)は本来、聴き手のニーズにあわせて選んでくれると、聴くほうもうれしくなるに違いない、と私には思えてならない。


ジャズの本質的な良さは、素材を自由に料理する柔軟性の面白さと、耳にやさしいアコースティックな響きの心地よさと、小さなハコで身近に聞ける気さくさ、そんな点にあるように思う。スタンダードナンバーの呪縛を離れ、自分たちが青春時代に親しんだ、より愛着のある曲を、ジャズフォーマットで、じっくり聴いてみたい。ふとそんな思いにかられた。